ISID engineering

株式会社 ISIDエンジニアリング

コラム

エンジニアが「考える」ための考え方
~分けて、整理して、繋げる~
第40回:分ける切り口としての周波数

技術アドバイザー 岡建樹

 本コラムの副題は、「分けて、整理して、繋ぐ」です。「分ける」切り口にはいろいろとあります。空間(場所)で分ける場合、時間(工程)で分ける場合等です。今回は、その分ける切り口として、「周波数」で分けて考えるということについて紹介していきます。
 周波数には、空間周波数と時間周波数があります。空間周波数で分けて考える事例としてバイオミメティクス(生物模倣)の機能を、また、時間周波数で分けて考える事例として自動車の振動/騒音を取り上げます。

 バイオミメティクス(生物模倣)については、第34回のコラムで、アナロジー(模倣)を用いた考え方のひとつとして紹介しました。その中で、具体的事例として「蓮の葉の表面構造」を模倣した「超撥水ガラス」についても示しました。今回のコラムでは、最近聞いた講演を参考に、その表面構造についてもっと詳細に、表面凹凸の空間周波数を切り口にして考えてみたいと思います。

 蓮の葉の表面構造を微視的に見ていくと、マイクロオーダーの微細構造と、その微細構造上にナノオーダーの微細構造があるということです。そして、マイクロオーダーの微細構造とナノオーダーの微細構造が、それぞれ異なる働き(機能)を有しており、その結果として、蓮の葉としての超撥水の機能を発現しています。
 また、バラの花ビラには、マイクロオーダーの微細構造はありますが、ナノオーダーの微細構造がなく、蓮の葉とは異なる現象を示すということです。
 それらを表1に比較して示します。

表1
表1

 マイクロオーダーの凹凸による撥水性は、いわゆる水の接触角の大きさで表現されます。そうした凹凸があると接触角が大きくなるということです。そして、ナノオーダーの凹凸(細かい毛状)では、水の付着力を小さくすることができます。水がその凹凸の中に入ることができず微視的な接触状態が変わるということです。その結果として、蓮の葉では、その上で水は接触角が大きいので球形に近くなり、付着力が小さいので葉を傾けると水は転がり落ちます。バラの花びらの上では、接触角が大きいので水は球状になりやすいですが、付着力はあるので花びらからは転がり落ちにくいということです。

 単なる凹凸であっても、その空間周波数によって異なる働きを持っているのですから、現象のメカニズムを考える場合に、空間周波数によって現象を分けて考えることが必要ということになります。「分ける」切り口として、空間周波数があるということです。

 次いで、時間周波数で分けて考えるということの事例として、自動車の振動/騒音について考えてみます。自動車では、様々の振動/騒音現象があります。路面の凹凸による「路面ノイズ」、エンジン始動時の「エンジンシェイク」、アイドリング時の「アイドリング振動」等です。それらの現象には、対応する時間周波数の領域があります。図1の下半分に、どのような周波数領域の現象であるかを示しています。
 また、振動現象を理解する上では、どのようなモデルを用いて考えるかということが重要ですが、周波数によって適合するモデルがあるということも知られています。図1の上半分に示す通りです。
図1
図1

 一番低い周波数の(Ⅰ)領域では、対象を剛体として考える集中定数系のモデルが適合し、少し上の周波数の(Ⅱ)領域では、対象の大きさや変形を考慮する分布定数系のモデルが適合し、さらに高周波の(Ⅲ)領域では、いわゆる共振を考慮しないエネルギーモデルが適合します。

 図1の上下を見れば分かるように、それぞれのモデルに適用できる周波数領域があり、その範囲を越えてひとつのモデルによって複数の現象を理解しようとすることは適切ではありません。対象とする現象の周波数領域によって適合するモデルがあるので、それを活用するべきであるということです。つまり、現象を適切に理解するためには、その現象に対応する周波数領域を先ず知り、その周波数領域に合ったモデルを用いることが必要ということです。現象を理解するために「分ける」切り口として、時間周波数があると言えます。

 繰り返しになりますが、現象の全体を理解するには、現象を「分けて、整理する」、つまり、分けたそれぞれを理解することが必要です。最初の「分ける」ための切り口として、空間(場所)や時間(工程)以外に「周波数(空間、時間)」があるということを、事例を用いて示しました。
 空間的な凹凸がある対象や、時間的に振動する現象は、いろいろの場面でよく見ることがあると思います。それらを理解しようとする時に、「周波数で分ける」という切り口があるということを思い起こしてもらえればと考えます。

2021.8.16

参考:

  • 鈴木健司:日本画像学会第89回イメージング・カフェ(2021年7月21日)講演から
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